「ブルーサファイア」エレジー⑬

 級友達から貴公子と呼ばれているA先輩は、簡単に人に謝る人ではないのです。

 A先輩から一方的に謝罪されたカノン先生も少し驚いた様子でした。すると、カノン先生は、A先輩と私の方を向いて言いました。

 「少し歩きましょうか」

 私達は、もう一つの円型噴水の方へ向かって歩き始めました。

 「有坂君が謝ってくれるなんて思ってもいなかったので、少しビックリしたわ。……だけど、私が最初にゲームセンターでひどいことを言ったのだから、もともと私が悪いのよ。だから……」

 すると、A先輩はカノン先生の言葉をさえぎって静かな口調で言いました。

 「だけど、その直後に僕達と対面した時から、先生の僕達に対する態度が変化しましたよね。涙ぐんだり、態度も柔らかくなったように思えたので……」

 「えっ、……それは……私も言い過ぎたと思ったのよ」

 「そのあと、レストランでも悲しそうにされていましたよね」

 「そのことね。前に、西島君も言っていたわよね……」

 「それは、僕達のせいでしょうか?」

 カノン先生は、「えっ……」と言って立ち止まって、沈黙しました。



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 しばらくして、カノン先生は私の方を向いて言いました。

 「西島君も、そのように思っているの?」

 私はうなずいて、カノン先生から目をそらし噴水の方を向きました。

 私はうなずきはしましたが、あの時、広島のレストランでタバコを吸いながら泣くのを必死にこらえているカノン先生を見て、私は、それが私達のせいだとすると、少し大げさに思えたのも事実でした。

 「私が悲しそうに見えたのなら。……それは、君達のせいじゃないわ」

 「……僕達のせいではないのですね?」

 「だから、もう気にしないで。……そのことは、忘れて」
 
 私は、思わずカノン先生の顔を見ました。忘れてと言われても、以前、中学校の駐車場のゴルフの中でも、カノン先生は泣いていたのです。私達のせいではないとすると、カノン先生は、どのような悲しいことがあったのでしょうか。

 そんなことを考えていたら、A先輩が口を開きました。

 「そうですか。では、もう忘れることにします。トラ君も、そうしようよ」

 私も、これ以上カノン先生のプライバシーに立ち入るのは気が引けました。

 「分かりました」

 「ごめんね……さあ、駐車場へ行きましょう。楽しくドライブして食事しよう」

 そう言うと、カノン先生は少し速足で歩き始めました。A先輩と私も後に続きました。少し歩くと、ロープウェイ乗り場の駐車場が見えてきました。



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 駐車場には、青いフォルクスワーゲン・ゴルフが私達を待っていました。私はゴルフに乗れるのでワクワクしました。

 A先輩と私が後部座席に乗り込もうとしたら、「2人とも後ろじゃ、私、寂しいわ……」と運転席のカノン先生が後ろを振り向いて、少しすねた顔をしました。

 「先輩が、どうぞ」と私が言うと、A先輩は素直に前の助手席に乗り込みました。駐車場をゴルフは出発しました。

 「広島に行くわよ」

 私は市内のレストランに行くものと思っていたので、驚きました。私達がカレーを食べた、あの広島市のホテルのレストランに、カノン先生は行くつもりなのでしょうか。

 青いゴルフは市街地を通り抜け、やがて海岸沿いの国道に出ると、広島市に向かって軽快に走り出しました。

 後部座席の私はゴルフの内部のインテリアを見まわしたり、前席の計器パネルや走行メーター類をチェックしたりして、ゴルフを満喫していました。

 それにしても、カノン先生の運転は、なかなか上手でした。というか、かなりのものだったので、私は少し驚きました。

 よく、“車のハンドルを握ると性格が変わる” などと言いますが、カノン先生は男のようなキレのある運転をしたのです。(続く)

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プロフィール

Romy Rurikawa
あらゆる乗り物が好きなのでよく旅に出ますが、そこは日常の喧騒から逃れて自分をみつめ、淡いふれあいもある、やすらぎの空間なのです。