「ブルーサファイア」エレジー⑮

 カノン先生には、やはり、彼氏がいたのです。

 A先輩は少しおどけて言いました。

 「うわ~、やっぱり。……一緒に絵を描いたりとか」

 カノン先生はうなずきました。

 「そうね。そんなこともあったわね。だけど、彼には、今は会えないのよ」

 「遠くにおられるのですか、外国とか?」

 「そうじゃないけど……」

 私は、カノン先生に質問しました。

 「カノン先生の彼氏って、どんな人なんですか?」

 「う~ん、そうね……彼のことは事情があるので今は話せないのよ。だけど、いつか話せると思うわ」

 「あっ、分かりました」

 「ごめんね」

 私は、カノン先生が、少し遠い存在になったように感じました。

 ゴルフはかなりのスピードで走っています。国道は車があまり走ってはいませんでした。信号も少ないのです。車の窓の外の瀬戸内海は、漁港が見えて、漁船やボートが多数停泊していました。



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 車内が沈黙しがちになったので、私は、美術の話題に切り替えることにしました。

 「カノンさんはM美術大学出身ですよね。始業式の日、教頭先生が『北久世先生はM美術大学を優秀な成績で卒業されて』と紹介していました。それまで僕達はずっとカノンさんは広島大学出身と思っていました」

 「広島大学?……あっ、あの時、広島のゲームセンターでA君が『広島大学ですか?』と問いかけたわよね。私が沈黙していたから、君達、そう思ったのね」

 「そうです。だけど、広島大学では美術の先生になれないですよね」

 「そんなことないわ、なれるよ。教育学部の造形芸術コースを選べば、美術教師になれるのよ」

 「あっ、そうなんですか。……カノンさんは最初から美術の先生になりたかったのですか?」

 「……いいえ、絵が好きだから、画家志望だったのだけれど、……たまたま、教職もとっていたので」

 「カノンさんが教室で、時々お手本で描かれる絵は、クラスのみんなが感心しています。すごく魅力的だと」

 「そうなの? でも、まだまだなのよ」

 A先輩が、カノン先生に質問しました。

 「カノンさんは、好きな画家がいますか?」

 「中学生の時、ヒエロニムス・ボスという画家の絵を見て、こんな絵を描きたいと思ったことがあるの。でも、今は、好きな画家は沢山いるわ」

 そう言って、カノン先生は、海外や日本の画家を数人挙げて、エピソードや作品の話を、面白く話してくれました。

 話が一段落した頃、A先輩が、おどけた調子で言いました。

 「僕は、テレビのクイズ番組が大好きなんです。今から、みんなで、クイズでもしませんか?」

 「いいわよ。私も大好きよ。トラ君、やってみようよ」

 「ええ、いいですよ」

 最初に、A先輩が出題しました。

 「カノンさん、今日は僕達を食事に招待して下さり、ありがとうございます。ところで、僕達の好きな料理は何でしょうか? 当ててみて下さい」

 「ええっ?……好きな料理?……いいわよ」

 そう言うと、カノン先生は、しばらくの間、じっと考えていました。

 私は、カノンさんは、恐らく私達の好きな料理を完璧に当てることは難しいだろうと思いました。

 「……う~ん……ひらめいたわ。A君は、中華料理。……そして、トラ君も同じく中華料理ね」

 私は驚きました。A先輩も、思わず私の方を振り返りました。

 「当たった?」

 そう言って、カノンさんは前を向いて運転しながら、少し微笑みました。(続く)

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プロフィール

Romy Rurikawa
あらゆる乗り物が好きなのでよく旅に出ますが、そこは日常の喧騒から逃れて自分をみつめ、淡いふれあいもある、やすらぎの空間なのです。