「ブルーサファイア」エレジー⑯

 「当たりました! カノンさん!」

 私とA先輩は声を揃えて叫びました。

 A先輩は、とにかく中華料理が大好きなのです。私も中華料理が好きなので、A先輩と2人でよく一緒にあちらこちらの中華料理店に食べに行っていたのです。

 A先輩は拍手しました。

 「驚きました!僕は中華料理がとても好きなんです」

 私も、驚きを隠さずに興奮気味に言いました。

 「本当に僕も中華料理は大好きです。……一体、どうして分かったのですか?……ひょっとすると、カノンさんは超能力者ですか?」

 「超能力者?……どうかしら」

 すると、A先輩が、カノンさんに質問しました。

 「もしかすると、カノンさんは中学校で、トラ君の同級生や友人達に聞いたりして、事前に調べたのではありませんか?」

 「………バレたか」

 A先輩も私も「な~んだ」と言って大笑いしました。カノン先生も苦笑していました。

 私は、そうだったのかと思いました。いくらなんでも、他人の好きな料理なんて、そう簡単に分かるはずはないのです。しかも2人とも当てるなんて……。

 気がつくと、ゴルフは、いつの間にか広島市を通り過ぎて、国道からはずれて海岸線の道路を走っていました。A先輩と私がカレーを食べた広島市のレストランには行かないようです。

 しばらく海岸線の道路を走り続けると、市街地に入りました。ある交差点で赤になり、ゴルフは停止しました。
 
 信号が青に変わりました。けれども、ゴルフは発進しようとしません。私は後部座席から言いました。

 「カノンさん、青ですよ」

 カノン先生は、無言でうなずきましたが、真剣な顔でハンドルを握ったまま、発進せずに停止しています。

 後ろの車が「プープー」と、早く発進しろとクラクションを鳴らしています。A先輩がカノン先生の方を振り向きました。

 カノンさんは、仕方ないという感じで車を発進させ、ゆっくりと交差点に進入しました。すると、また、ブレーキをかけてゴルフを停止させました。

 その時、急に交差点の左側道路から、猛スピードで大型バイク3台が赤信号を無視して進入してきて、私達のゴルフの前を通り過ぎ、右折して後方に去って行きました。一瞬の出来事でした。



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 私達はヒヤリとして命の縮む思いでした。私は後部座席の窓を開けると、「バカヤロー、信号を無視するな!」と去って行く大型バイクに大声で叫びました。

 たまたま対向車もいなかったので、バイクは衝突する事もなく事故にはなりませんでした。この交差点の左側には建物があり、左側の道路から進入してくる車は見えにくいのです。

 もし、青信号と同時に発進していたら、恐らく、あの大型バイク3台と衝突して、私達は大事故に巻き込まれていたでしょう。カノンさんはゴルフを再び発進させました。

 私は「カノンさん、直ぐに発進せずに本当に良かったですね!」と言いました。カノンさんは頷きました。すると、A先輩が不思議そうな顔でカノンさんに尋ねました。

 「カノンさん、青信号なのに車を発進させませんでしたね。左側道路は建物で見えないので僕は全く気付きませんでしたが、カノンさんはバイクが来るのが分かっていたのですか?」

 左側の建物により、突っ込んでくる大型バイクは見えません。バイク音も直前に急に聞こえてきたのです。だから左席のA先輩でさえも気付かなかった位です。命にかかわる大事故になるところだったので、私もそのことは不思議に思いました。

 「……なんとなく、今、発進しない方がいいと思ったのよ」

 カノン先生は小さな声で言いました。後ろから、ふとカノン先生の横顔を見た私は、ハッとしました。カノン先生は涙をためて、悲しそうな顔をしていたのです。怖かったのでしょうか? 

 そこで私は、冗談のつもりで思ったことを口に出しました。

 「でも、さっきの交差点のことは、どう考えても不思議です。カノンさんは、本当は、超能力者なんでしょう?」

 すると、悲しそうな顔をしていたカノンさんは、少し微笑みました。それから、少しおどけた調子で言いました。

 「フフフ、本当に、そうかも知れないわよ……」

 A先輩が、思わずカノンさんの方を向きました。するとカノンさんはA先輩の方を向き、ニコリとしました。

 その時、大型バイク3台が後方から近づいて来て、バリバリバリと音を立てて猛スピードで私達の車をスレスレに抜かして行きました。

 私は驚きました。A先輩も思わず「あっ!」と声を出しました。カノン先生が静かな声で言いました。

 「さっき交差点で飛び出してきた大型バイクたちだわ」(続く)



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プロフィール

Romy Rurikawa
あらゆる乗り物が好きなのでよく旅に出ますが、そこは日常の喧騒から逃れて自分をみつめ、淡いふれあいもある、やすらぎの空間なのです。