「ブルーサファイア」エレジー⑰

 「あの大型バイク3台は、Uターンして引き返してきたのですね。それにしてもスレスレで、無茶な抜き方ですね」

 そう言いながらA先輩が前方のバイクを、怒りを込めて指差しました。私も不安になり、つぶやきました。

 「僕が ”バカヤロー” と叫んだので追いかけてきたのかもしれない」

 「大丈夫よ。気にしないで」

 そう言って、カノン先生は後ろを振り向いてニコリとしました。

 大型バイク3台は、私達のゴルフから約100m位前方を走っています。

 「海岸で、少し休憩しようか」

 カノン先生はハンドルを右に切って海岸の松林に進入しました。松林の中を少し進むと駐車場があり、そこにゴルフを停車させました。

 車から出ると、そこには広く美しい砂浜が広がっていました。石段を下りて、私達3人は砂浜に立ちました。砂浜には私たち以外には誰もいませんでした。



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 私は砂浜がとても美しいので、今までの不安感から少し気が楽になりました。A先輩が言いました。

 「それにしても、すごくきれいな砂浜ですね。ここは海水浴場でしょうか」

 「そうよ、海水浴場よ。……きれいでしょう。浜辺を散歩しましようか」

 カノン先生は、先頭に立って砂浜を歩き始めました。A先輩と私はその後に続きました。春の海は穏やかで、風が心地よく顔に当ります。

 しばらく歩くと、カノン先生は立ち止まり、寄せてくる波の方を向いて、長い間海を見て佇んでいました。それは、海を眺めるのではなく、じっと見つめている感じでした。

 少し離れたところからA先輩と私は、そんなカノン先生を見ていました。

 ネイビーのブラウスにピンクのスカート、髪をそよ風になびかせているカノン先生は、この砂浜に美しい一輪の花が咲いたようでした。

 けれども、海を見つめているカノン先生の横顔は、気のせいか、悲しそうに見えました。

 「私はこの海水浴場に、前に、何回も来たことがあるのよ」

 海を見つめたままカノン先生は言いました。A先輩が、ハッとした顔をして、カノン先生の方を向きました。

 すると、カノン先生は私達の方を振り向いて、急に明るい声で提案しました。

 「そうだ、夏休みになったら、ここに3人で泳ぎに来るのはどうかしら?……海水もきれいで泳ぎやすいのよ」

 私は嬉しくて、心の中で「やったー」と叫び、直ぐに答えました。

 「本当ですか! 今から、すごく楽しみですよ!」

 けれどもA先輩は、ドキッとするようなことを、唐突に口にしたのです。

 「カノンさんは彼氏と会えないと言っておられましたが、夏休みには、彼氏と会えるのではありませんか?」

 なぜか、A先輩はカノン先生の彼氏のことを、かなり意識しているようでした。

 カノン先生は、おもわずA先輩の顔を見つめると、そのあと海に顔を戻しました。少し悲しそうな横顔でした。そして、小さな声で言いました。

 「彼のことは、もう気にしないで」

 気まずい雰囲気になりそうでした。こんな時に、私は何をすべきか……私はA先輩の背中をトントンとたたきました。

 「A先輩、せっかくカノンさんが誘ってくださったのですから、夏休みに一緒に来て泳ぎましょうよ」

 けれども、A先輩は沈黙していました。すると、カノン先生が海を見つめたまま、言いました。少し明るい声でした。

 「成績優秀で頭のいいA君は、夏休みも勉強で忙しいのかな?……だけど、たまには息抜きも必要だよ」

 A先輩は驚いた顔をして思わずカノン先生の方を振り向きました。

 私も驚きました。カノン先生は、どうしてA先輩が成績優秀と知っているのでしょうか。私は何も言っていないのです。中学校の他の先生に、すでに卒業しているA先輩のことを聞いたのでしょうか。

 その時、バイクの音がブルブルーンと聞こえてきました。思わず駐車場の方を振り向くと、さっきの大型バイク3台が松林から進入して来て、駐車場のゴルフの近くに停車するところでした。

 バイクから降り立った男3人はヘルメットを脱ぐと、私たちの方を見ました。

 それから、砂浜に下りてくると、リーダー格と見られる男を先頭に一列になって、ゆっくりと私達の方に歩いてやって来ました。

 3人とも、A先輩と同じくらい背の高い男で、大学生くらいの年頃でした。

 私はこれはまずいことになったと思いました。さっき私が彼らに向かって「バカヤロー」と叫んだので、それを根にもって仕返しに来たのに違いありません。

 「さっきのバイクの男たちです。まずいです。危険です」

 すると、A先輩がカノン先生の前に出ました。

 「カノンさんは後ろに下がっていてください。僕とトラ君が対応しますから」

 けれども、カノン先生は逆に私たちを引っ張って後ろに下がらせ、私たちの前に出ました。そして、彼らがやって来るのを無言で待ち受けたのです。

 私達のところまでやって来た3人の大学生風の男は、揃ってやんちゃな顔をしていました。その上、髪を染めて、派手な服装をしており、明らかに、”ワルの3人組” であるということが分かりました。(続く)

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プロフィール

Romy Rurikawa
あらゆる乗り物が好きなのでよく旅に出ますが、そこは日常の喧騒から逃れて自分をみつめ、淡いふれあいもある、やすらぎの空間なのです。