「ブルーサファイア」エレジー⑳

 しばらくカノン先生は何かを考えているようでしたが、口をすぼめて少し怒った口調でA先輩に向かって言いました。
 
 「不思議な人ですって?……ひょっとしてA君は私を、……変な人だと思っている?」

 「ハハハ、……少し」

 「アラッ、否定しないのね!」

 すかさず、私が、思い切って本音を吐露しました。

 「合気道を身に付けておられるとはいえ、さっきのあのバイクの男たちを一瞬で3人とも投げ飛ばしたのは、とても信じられないのです。それに交差点でストップされたことも不思議です。カノンさんは超能力者みたいです」

 「あら、トラ君も、そう思っているのね……違うわよ。二人とも、超能力者が現実に存在していると思っているの?」

 すると、A先輩がカノン先生に逆に質問しました。

 「あの男達3人が落ちた、あの砂浜の中の大きな落とし穴のことですが。僕達が砂浜に出た時は行きも帰りも波打ち際を通りましたから、落ちませんでしたよね」

 「ええ、そうよね。ラッキーだったわ」

 「運が良かったとも言えますが、行きも帰りもカノンさんが先頭に立って僕達を引率するようにして波打ち際を歩かれたのではありませんか?」

 「別に引率して、君達を波打ち際に導いたのではないわよ。私はただ、海に近いところを通りたかっただけなの」

 「カノンさんはあそこに落とし穴があるのを知っていたのではありませんか?」

 「まるで尋問を受けているみたいね。落とし穴のことは知らないわ。……あの落とし穴は、誰か地元の子供達がいたずらで、作ったのではないかしら」

 「そうですか……?」

 「A君、よく考えてみて。仮に私が知っていたとしても、あのバイクの男たちが、あの海水浴場にやってきて、しかも落とし穴の上を通るとは限らないでしょう?」

 「でも、現実にはあの男たちは、穴に落ちました」

 「それは偶然の賜(たまもの)よ。……もう、そのことは忘れましょう」

 A先輩は、「分かりました」と答えました。

 A先輩はそう答えたものの、納得できないような顔をしていました。けれども、それ以上何も言いませんでした。私も、さっきの海水浴場での出来事が現実であるにしても、何かスッキリしないものがありました。

 ゴルフは瀬戸内海の海岸道路を走り続けています。国道ではないからか、他の車とは、ほとんど出会いませんでした。

 進行方向の右側には、美しい青い空とコバルトブルーの海が広がっていました。私は、ふと、この美しい景色さえ、本当に現実なのだろうかと疑いました。


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 私は考えてみました。カノン先生が事前に落とし穴のことを知っていたと仮定します。

 すると、「海岸で、少し休憩しようか」と言って道路からそれて、あの海水浴場に向かった時点で、あのバイク男たちが引き返して私達のいる海水浴場までやって来ることを、カノン先生は予想していたということになります。

 そのまま道路を走ると、バイク男たちはきっと私たちの車を道路上で妨害して嫌がらせをするに違いないと、カノン先生は危機感を抱いたのです。

 だからカノン先生はハンドルを右に切り、海水浴場の駐車場に逃れたのです。

 もしバイク男たちが引き返してきて私達を追いかけて海水浴場にやって来たとしても、あの落とし穴があるのです。

 しかし、彼らはバイクから降りて、最初は、私たちのいる砂浜まで波打ち際を歩いてやって来たのです。

 もし砂浜の真ん中を通っていたら、最初の時点で彼らはあの落とし穴に落ちていたでしょう。しかし、そうはならなかった。だから、あのバイクの男たちと対決することになったのです。

 だとすると、一体だれがあの落とし穴を前もって掘ったのでしょうか。カノン先生の言うように地元の子供達のいたずらでしょうか。

 そうだとしても、今日までに、誰か砂浜を散歩する人達が落ちないとも限りません。すると、落ちた人によって、落とし穴は埋められてしまうでしょう。

 カノン先生も、それは分かっているはずです。それに、カノン先生は、一体どうして、その落とし穴のことを前もって知っていたのでしょうか?

 ますます分からなくなりました。カノン先生の言うように、あの落とし穴のことは、すべて偶然だったのでしょうか。

 私は、今まで、なぜか、不思議な現象や出来事に何回も遭遇しています(いつか、そのことを書きたいと思います)。

 今回の海水浴場での不思議な出来事も、現実にそれらは私の目の前で起きたのです。

 カノン先生は、黙って車を運転しています。

 しばらくして、カノン先生は、ハンドルを左に切りました。私達の乗ったゴルフは道路からはずれ、遠くの山々に続く、広くなだらかな丘の斜面の道路に進入しました。(続く)



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プロフィール

Romy Rurikawa
あらゆる乗り物が好きなのでよく旅に出ますが、そこは日常の喧騒から逃れて自分をみつめ、淡いふれあいもある、やすらぎの空間なのです。