「ブルーサファイア」エレジー㉑

 私達の乗った青いゴルフは、山手の丘の整備された広い道路をどんどん上って行きました。

 かなり走ると、やがて高い丘の上に、どう表現したらいいか、山小屋というか、ログハウス風の大きな建物が建っているのが見えてきました。カノン先生が言いました。

 「あのホテルよ」

 近づいてみると、造りのがっしりした、かなり大きなホテルでした。私はこのような山小屋風の巨大なホテルは初めて見ました。


211hotelsiro75.jpg


 カノンさんは、そのホテルの駐車場にゆっくり進入し、ゴルフを停止させました。

 車から出ると、カノンさんが言いました。

 「ここで食事をしましょう。さあ、入りましょう。トラ君は、ほっぺの傷、痛くない?」

 「あっ、大丈夫です」

 A先輩と私は、カノンさんについてホテルに入りました。カノンさんは広いロビーの受付カウンターに行くと、なにか一言二言話した後、私達のところに戻ってきました。

 「上に行きましょう」

 私達はエレベーターに乗り込みました。4階で降りると、レストランではありませんが、広い展望ラウンジみたいなところがありました。開口部が広く、ウキウキするような明るい空間でした。
 
 ラウンジは、それほど混んではいませんでした。ゆったりとした間隔をとってテーブルが配置され、数人の客がテーブルでドリンクを飲みながら談笑していました。

 「テラスに出ましょう」

 カノン先生について、ラウンジの外側のテラスに出ると、そこは空中庭園風になっていて、遠くに市街がひろがっていました。素晴らしい眺めでした。左方向には瀬戸内海が見渡されました。

 テラスにあるテーブルのソファに私達は座りました。すぐにホテルの男性スタッフがやって来て、深々と頭を下げ、「いらっしゃいませ。なにか御用がありましたら、何でも仰せ付け下さいませ」と挨拶して去って行きました。

 しばらくすると、恰幅のいい50代くらいのホテルのスタッフと思われる男性が私達のテーブルに近づいて来ました。カノンさんが立ち上がったので、私とA先輩も立ち上がりました。

 「カノンちゃん、いらっしゃい」

 「おじさん、今日はお世話になります。よろしくお願いします」

 「今日は、元気そうだね」

 カノンさんはこっくり頷きました。それから、僕達を紹介しました。

 「こちらのお二人は、私のお友達です」
 
 A先輩と私は、「有坂です」「西島です」と一礼して自己紹介しました。

 すると、その男性は丁寧に頭を下げて挨拶しました。

 「兼永と申します。今日は、ようこそいらっしゃいました。ごゆっくりお過ごしください」

 それからカノンさんに向かって言いました。

 「料理の準備はできているよ。食事は、一階のレストランよりも、ここの中ラウンジのテーブルの方がいいよね?」

 「はい、お願いします。おじさん、本当にありがとうございます」

 「分かりました。ところで、カノンちゃん。お父さんが来ておられます。それで、支配人室で待っているので、ちょっと顔を出して、との伝言ですが……」

 カノン先生はハッとした顔をしました。そして、うつむきました。何か考えているようでした。

 しばらくして、カノン先生は言いました。

 「……そうですね……今は、お友達と食事をしますので、あとで行きますと、伝えてください」

 「……そうなの……分かりました。それでは、ごゆっくり」

 兼永さんという人は一礼すると、去って行き、ラウンジから出て行きました。

 A先輩がカノンさんに質問しました。

 「ひょっとして、カノンさんのお父さんは、このホテルの支配人ですか?」

 「違うわよ。今の兼永さんが支配人なの。父は、時々、このホテルに来るのよ」

 今度は私が質問しました。

 「兼永支配人はカノンさんのご親戚の方ですか?」

 「いえ、おじさんは私の父と大学時代の同級生で親友なの。それで若いときから家族ぐるみで交流があり、親戚付き合いのように、お互いの家に行ったり来たりしているのよ」

 そう答えると、カノン先生は、うつむきました。何かしきりに考えているようでした。(続く)

商品紹介

プロフィール

Romy Rurikawa
あらゆる乗り物が好きなのでよく旅に出ますが、そこは日常の喧騒から逃れて自分をみつめ、淡いふれあいもある、やすらぎの空間なのです。