「ブルーサファイア」エレジー㉓

 テーブルに並んでいる、まぶしい位の豪華な中華料理の数々は、焼き豚と麻婆豆腐以外は、ほとんど私の知らない料理ばかりでした。

 今まで、私とA先輩がよく食べた中華料理といえば、チャーハン、小籠包、ラーメン、あんかけ焼きそば、中華丼、ギョウザ、レバニラ炒め、チンジャオロース位のものでした。

 私は、目の前の中華料理を見て、感謝感激でした。

 「食べたことが無いものばかりです。それに、初めてです、こんなに豪華な中華料理は! ありがとうございます」

 「食べ盛りだから、遠慮なく、しっかり食べるのよ!」

 A先輩は、嬉しそうと言うよりは、恐縮した感じでカノン先生に言いました。

 「僕達の好きな中華料理を予約して頂いたのですね。すみません。こんなに豪華な料理を沢山に……申し訳ないです」

 「A君、そんなに気にしなくていいわよ。……私の感謝の気持ちなのだから。A君は、……もう、大人みたいに気を遣うのね……」

 カノン先生はそう言うとテーブルに着き、座りました。私達も椅子に座りました。ジュース類も沢山用意してありました。カノン先生が言いました。

 「乾杯しましょう。好きなジュースを撰んで」

 私達は、それぞれ好きな飲み物をグラスに注ぎました。カノン先生が先唱しました。

 「A君、トラ君、仲間になってくれて、本当にありがとう。とても嬉しいのよ。私たちの出会いを祝して、乾杯!」

 「カノンさん、ありがとうございます。乾杯!」「乾杯!」



231tyuukar531.jpg



 A先輩と私は、「いただきま~す」と言って、早速、食べ始めました。どれから箸をつけようか迷いました。食べきれないほどの料理が並んでいたのです。

 カノン先生は、一口、二口食べると、私達に言いました。

 「君達、食べていてね。私はちょっと用事を済ませて来るから」

 そう言うと、カノン先生は席を立って、ラウンジの入口の方に歩いて行きました。

 その時、ラウンジの入口から背の高い中年の男性が入って来ました。

 すると、カノン先生がその中年の男性に何か話しかけました。結構広いラウンジなので、会話の内容は聞こえません。

 中年の男性とカノン先生は、ラウンジの入口付近で話しています。何か深刻そうな雰囲気でした。中年の男性が、チラリと私たちの方を見ました。

 それから、中年の男性はカノン先生と一緒に、私たちのテーブルの方へ歩いてきました。ゴルフウェアを着た、その中年の男性は元首相の小泉純一郎によく似ていました。

 A先輩と私は食べるのを止めて、立ち上がりました。私たちのテーブルの前まで来ると、その中年の男性はきちんと頭を下げて一礼して私達に言いました。

 「華音(カノン)がお世話になっております。カノンの父の北久世徳太郎です」

 A先輩もきちんと一礼して「有坂朋倫(とものり)と申します」と挨拶しました。続いて、私も「西島寅次郎です」と一礼しました。

 カノン先生は、なぜか、沈黙しています。

 カノン先生の父親はA先輩の方をじっと見つめました。そして、目をそらすと、私に話しかけました。

 「西島さんは、中学3年生にしては、背が高いですね。頬に絆創膏を貼っておられますが、どうされましたか?」

 「あっ、ちょっと、……大したことありません」

 「そうですか、お大事にね。……どうですか、中学校で、カノンは美術の先生として、しっかり教えていますか?」

 「はい。カノン先生が来られて、クラスの者はみんな、美術の時間が待ち遠しいと言っています。最初に、カノン先生が言われた言葉、 “美術は人生にとって、とても大切なもの” が心に残っています。授業も面白くて、カノン先生の絵も魅力的です。そしてカノン先生もすごく魅力的です」

 「アッハハハ、そうですか、そうですか」

 カノン先生が、私に向かって言いました。

 「トラ君、ほめ過ぎよ。私はまだ新米教師だし、実は四苦八苦で、まだまだなのよ」

 父親が、私に向かって言いました。

 「カノンは、小さい頃から気が強くてね。まあ、私が厳しく育てたせいもあるけど、男みたいな性格です。それで、生徒さんに厳しく当たって、嫌われているのではないかと心配していました」

 「嫌われるどころか、クラスの生徒は、みんな、カノン先生が好きです。それに、憧れの人です。ですから、僕もこのように、特別に親しくしてもらって、とても嬉しく思っています」

 「西島君、ありがとう。……あなたは、やさしい人だ。これからも、カノンをよろしくお願いします」

 「あっ、分かりました……いえ、こちらこそ」

 カノン先生は、何か、ハラハラした様子で、父親の顔ばかり見ていました。(続く)






商品紹介

プロフィール

Romy Rurikawa
あらゆる乗り物が好きなのでよく旅に出ますが、そこは日常の喧騒から逃れて自分をみつめ、淡いふれあいもある、やすらぎの空間なのです。