「ブルーサファイア」エレジー㉔

 すると、カノン先生の父親は、今度はA先輩に話しかけました。

 「有坂さんも、背が高いですね。高校生になれば、そろそろ将来の夢とか、仕事のことも考えられるでしょうが、もう決めておられますか?」

 「はい。……なれるかどうか分かりませんが、弁護士を……夢見ています」

 「そうですか……弁護士ですか、ご立派ですね。では志望大学も決めておられるのでしょうね?」
 
 「……入れるかどうか分かりませんが、一応、東大法学部を……」

 「ほう、東大ですか。頑張って下さい。……それでは、いずれ、私の後輩になりますね」

 「あっ、……東大のご出身ですか?」

 「私は経済ですけどね」

 すると、カノン先生が、父親のポロシャツの袖をつかんで、小さな声で言いました。

 「お父さん、今、食事中ですから、もう……」

 「分かっているよ。……分かっています」

 カノン先生の父親は、背が高く、体形はほっそりしていました。けれども、顔が元首相の小泉純一郎に似ているせいか、一本気な性格に思えました。


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 父親は、再びA先輩に向かって質問しました。

 「……ところで、有坂さんのご親戚に、高校の校長先生は、おられませんか?」

 すかさず、カノン先生が父親をとがめるように言いました。

 「お父さん!……やめてください。初対面で、そんなことを聞くのは……」

 すると、A先輩がカノン先生に向かって「あっ、大丈夫ですよ」と言い、それから父親に向かって答えました。

 「遠い親戚に、中学校の校長先生はいますが、高校の校長先生はいないと思います。……親から聞いたこともありませんので」

 「……そうですか。……分かりました。お2人とも、カノンをよろしくたのみます。お邪魔したね。どうぞ、ごゆっくり」

 そう言うと、カノン先生の父親は一礼して去り、ラウンジを出て行きました。

 カノン先生は、A先輩と私に向かって言いました。

 「さあ、座って食べましょう。急に来て驚いたでしょう。父がどうしても、あなた達に挨拶したいというから……何でも押し通す性格なの。ごめんなさいね」

 私達は再び席に着き、豪華な中華料理を食べ始めました。

 カノン先生が食べながらA先輩に申し訳なさそうに言いました。

 「A君、父が君のプライバシーのこと、しつこく聞いて申し訳ないわ」

 「いえ、大丈夫ですよ。別に、変なことを質問されたのではありませんから。ただ、どうして、高校の校長先生のことを聞かれたのかなと思いました」

 カノン先生は、一度うつむいて、それから答えました。

 「父は、確かめたいことがあったのよ。だけど、気にしないで」

 「はい……」

 A先輩は、それ以上何も言いませんでした。A先輩は、どんなことでも納得できないと、終わらせない性格なのですが……。私は、カノン先生に言いました。

 「カノンさんのお父さんは、東大を出ておられるのですね。すごいですね!」

 「父は、子供の頃から勉強はよくできたみたいだけど、性格が強気で。……今でもそうだけど、ワンマンで困るのよ。もっと、他人に気を遣えばいいのに。そこのところは、母も苦労しているの」

 すると、A先輩がカノン先生に言いました。

 「でも、とても、おおらかな感じで、やさしそうな人に見えました」

 「あれで、少しは気を使っているのよ。……A君は、弁護士になるのね。とても良い仕事だわ。東大も受かるといいわね」

 「いや~、一応、夢ですから。……なれるかどうか」

 「……いつも思うのだけれど、A君は見かけによらず、弱気なのね。もっと自信を持ちなさいよ」

 「あっ、……はい」

 そんな2人の会話を聞きながら中華料理を満喫していた私は、私達のテーブルのすぐ近くの壁に掛かっている1枚の額入りの絵に、ふと目が行きました。

 このホテルを描いた絵でした。独創的な構図と独特の色彩が印象的でした。私はとても魅力的な絵に思えました。

 絵の構図は、丘の上にこの山小屋風のホテルが建っており、西方の遠くの山に、夕陽が沈みつつあり、ホテルを赤く照らしていました。さらに、ホテルの上の夕暮れの空には三日月と星が輝いているというものでした。

 また、その絵の中のホテルのテラスには多くの人が出て、手に飲物を持ち、楽しそうに談笑したり、景色を眺めたりしていました。

 けれども、この絵の全体的な配色が際立っていました。常識的な配色を一切排除して見る人を強く引きつける、一度見たら忘れられない絵でした。

 私は、ふと思いました。この絵はカノン先生が描いたのではないかと。(続く)

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プロフィール

Romy Rurikawa
あらゆる乗り物が好きなのでよく旅に出ますが、そこは日常の喧騒から逃れて自分をみつめ、淡いふれあいもある、やすらぎの空間なのです。